第19章 動く
「白のつなぎなんて何か急な動きでもあったのか…い…?」
返事のない小女の顔を見て、杯に酒を注いでいた女の手が止まる。無言のまま小女の手から文が渡されるとすぐに目を通し、女は大きく息を吸ってゆっくりと吐き出す。
「……やってくれるねぇ」
そう呟いた女に小女が詰め寄ると、なだめるように小女の頭を優しく撫でる。
「すぐに馬の用意を。三頭だねぇ」
「わかった」
「それと、あんたはその殺気を鎮めな。そんなんじゃ馬が怯えるし、邪魔になる」
「……わかった」
「いい子だ。急ぐよ」
その声に頷くと小女は深く息を吸い、すぐに部屋を後にした。残った女は杯に注いだ酒を一息に呑み干すと、立ち上り通りに面した障子を開ける。
通りには明かりが灯り、男や女の賑やかな声が聞こえてくる。女は緋色の布を手に持ち通りに向かい一振りすると、静かに障子を閉めた。それと同時に、気づく者などなく通りから幾つかの影が消えた。
「さて…と、どうしてくれようねぇ…」
近づいて来る足音を耳にしながら、女が小さく呟いた。