第19章 動く
用意された褥の前で、女がゆっくりと着物を脱がせていく。脱がせ慣れた指先が迷いなく俺の身体を動き回るが、それほど嫌な感覚はなかった。
ふと、女の手が止まる。
懐に入れていた手拭いが目に止まったようで、そっと触れて眺めていた。
「綺麗な色ですねぇ」
薄水色のそれはひいろが染めたもの。安土を立つ際に無意識に懐に入れていた。俺のために染めたと話していたひいろの声を思い出す。
あの日俺は、初めてひいろに唇を重ねた。戯れのような微かな自分勝手なその行為を思い出し、揺れていた青臭い思いが苦々しい黒さを増し顔を出す。
「主様、こちられ」
女の声に我にかえる。長襦袢姿となった俺を女が褥の上にと座らせる。そして、女は自分の襦袢を脱ぎ捨てると、俺の背後へとまわり耳元で囁く。
「そんな目をさせるのはどんなお人なんですかねぇ。ねぇ主様、こちらお借りしますよぅ」
そう言うと女は先ほどの手拭いを手に取り、さらりと俺に目の前に広げ両目を隠した。
「何のまねだ」
「なに、お遊びですよぅ。
さぁ主様は、今一番欲しいお人でも思い浮かべて下さいなぁ」
小さく笑い、女が囁いていた俺の耳朶を軽く噛む。甘い刺激が背中から腰へとおりてくる。