第19章 動く
「そんな寂しそうな目をして抱くのですかぃ」
「なに?」
「主様を選んだのはその目せいですよぅ。その目に映る悲しみを抱いてあげたくなりましてねぇ」
「悲しみ?」
「気付いていなさらないとはねぇ。目を背けようとすればするほど身体に刻み込まれますよぅ」
女は目を細めてふわりと笑って見せる。その笑みが一瞬誰かと重なる。
「だとしたら……」
「抱いて差し上げますのさぁ」
そう言うと女は立ち上がり、俺の前で自分の帯に手をかけゆっくりと着物を脱ぎ捨てた。
「知っていなさるでしょうがねぇ。男は女の股から産まれてくるんですよぅ」
襦袢姿となり静かに畳に膝をつくと、俺の前に用意されていた膳をずらし、俺に触れそうな所まで近づきそのまま膝立ちになる。
「男ってのは可愛いもんでねぇ、何かあると女の股へ帰りたくなるんですよぅ」
視線を上げず動きもしない俺を特に気にする様子もなく、女は喋り続けていた。
「手前勝手な女らしい考えだな」
「おや、手前勝手はお互い様ですよぅ」
そう返した俺の言葉など気にすることもなく、女の口調は変わらず態度も変わらない。
「まぁ、あたしの場合はそれが商売ですからねぇ。だからですかねぇ、色々と見えてくるものがあるんですよぅ」
「お前は何者だ」
「ですから、ただの商売女ですよぅ」
突き刺すように発した言葉にも、女の態度は変わらなかった。