第19章 動く
案内された部屋の襖を開けると、ひれ伏していた女がゆっくりと顔をあげた。
「お待ちしておりました」
そう言って艶やか頬笑む女に促され、部屋に入り用意された席につく。
「おひとつ、どうぞ」
男の目を誘うような色香の中、女の動きはたおやかさがありその凛とした姿勢は、通りで見た媚を売るだけの女達とは違うように見えた。
その白い指先に杯を持たされ、女が手慣れた様子で酒を注ぐ。
「なぜ、俺を選んだ」
杯を見つめたままの俺の問に、女は
「いい男が好きなんですよぅ」
そう軽く答えると自分の分の杯を持ち、手酌で酒を注ぎ一息に呑み干した。
「では、何故お受けになったのです」
「気まぐれだ」
そう答え酒を煽ると、すぐに空いた杯に女が酒を注ぐ。
「気まぐれでも、選んで頂けたのなら嬉しいですよぅ」
その砕けたもの言いとは違う品位さえ感じる所作に、時折抱いてきた商売女達との違いを感じた。だからといって、それ以上踏み込むつもりはない。ただの客として一夜を過ごすだけなのだから。
二人、静かに酒を呑む。女は酌をしながら自分でも杯を重ねる。別に止めるつもりもなく、好きなようにさせておく。
用意された酒を呑み尽くすと、女が口を開いた。
「主(ぬし)様は、何故ここに?」
「女を抱く以外に来る理由があるのか」
俺の答えに女が小さく頬笑む。