第19章 動く
気がつけば、足は我知らず花街に向いていた。道には人が溢れ、そこかしこで賑やかな声が聞こえる。
艶やかな女達を値踏みするように男達が眺め、格子の間から女も男を見定める。そこに何が生まれるのか、欲にまみれた世界は鬱陶しいほど華やいでいた。
彼方此方からかかる女達の声を交わしながら歩き、一際男の溢れた店の前で足を止める。不意に感じた視線をたどると格子の中の女と目が合う。女は静かに笑うと持っていた煙管に火を付け軽く吸った。吐き出される紫煙さへ女を飾る道具に見えるような、そんな不思議な雰囲気のある女だった。
女は煙管の吸い口を懐紙でぬぐうと、格子の間から煙管を差し出した。周りの男の視線が集まるが、女の視線が俺へと向いているのが分かると男達は羨ましそうな下世話な笑いを浮かべ、俺の前に道を開けた。
「若いの、いい女を待たせてはいけないよ」
隣にいた初老の男が、動き出さない俺へと声をかける。それを皮切りに、野次ややっかみのような声が聞こえ、格子の中の他の女達も面白そうに視線を寄越した。
煙管を差し出した女は、そんな周りのことなど見えないように、ただ静かに微笑んだまま俺を見ていた。俺は小さく息を吐き、格子へと歩み寄ると煙管を受け取り一息吸った。吸い口に残る紅の色が女の香りを運んでくるような気がした。
吐き出した紫煙の先で、女が満足そうに笑みを強くすると、待っていたように店の者が俺に声をかける。今宵の相手が俺に決まったのだ。