第17章 離れる5【光秀編】
「光秀様。お嬢様はあなた様の絵を描かれることを本当に楽しみにされていました。あなた様にお会いにできる時間を……」
「だが、もう終いだ。ひいろが望んだのだろう?」
「……はい」
「ちょうど御館様へのお披露目も済んだのだ。よいではないか」
「……はい」
少しの沈黙の後、杯にまた酒が注がれる。今度はちびりと口に含み、舌の上で転がしてみる。鼻に抜ける香りが濃くなり、ひいろの姿が色濃く脳裏に浮かぶ。
「良い酒だと、ひいろに伝えてくれ」
「はい、ありがとうございます。後程御殿へ樽でお届けさせて頂きたいのですが、よろしいですか?」
「あぁ。……あさが寂しがるな」
「女中頭さんにもよくして頂いたようで……ありがとうございました。一緒に菓子類も届けさせて頂きますので、良しなに」
「あぁ、すまない」
「主が戻りましたら、改めてご挨拶とお礼をさせて頂きたいのですが、よろしいでしょうか」
「礼はこの酒で充分だ。それよりも御館様のため、抜かりなく励め」
「はい、ありがとうございます」
杯に残った酒に、最後に見たひいろの俯いた姿が浮かんで消えた気がして、一気に飲み干した。