第17章 離れる5【光秀編】
「そうだな、世迷い言だな」
「はい」
大番頭の返事に、残りの茶を飲み干す。
大番頭に俺の迷いが見えているのだろうか?
それとも試されているのか?
それとも……
「それより、俺がここへ来た意味はあるんだろうな」
一呼吸おき、自分の役目を思い出すように言葉を選ぶ。
そう、俺はここに役目を持ち来たのだ。ひいろに会いに来たわけではない。御館様に害をなすもの絶つために。
「はい。主はその為に、本日は風の国に出向いております。残念ながら顕如の行方は、依然として掴めておりません。ただ、糸野屋の方が焦れてまいりましたので、餌をまきに行っております」
「餌をまく?」
「顕如は用心深く距離を取り動いております。こちらの尻尾を掴むのはたやすくはございません。今は糸野屋の方が綻びを出しやすい所と見ております。なので少々仕掛けを……おそらくもう二、三日もすれば動きがあるかと」
「他には?」
俺の問に大番頭が懐から紙切れを出す。
「この二つの店を少しお調べ下さい。近々金と武器が動きそうでございます。申し訳ありませんが、うちの方が少し仕掛けに人を出しておりまして……」
「手が足りぬと、俺まで使うのか?」
「これはこれは滅相もございません。ただ光秀様の方が、近くにいらっしゃるのではと思いまして」
大番頭から渡された紙切れを見ると、確かに目星を付けている店の名が記されていた。
事も無げに話してはいるが、いろは屋では俺の配下の居場所まで把握しているらしい。こんな町の店一つが、どれ程のことをしているのか興味がわく。