第17章 離れる5【光秀編】
「何のことだ?」
低く問い詰めるような秀吉の声に、知らぬ顔をして静かに振り向く。
「ひいろを連れ戻った時、部屋から聞こえたお前の声にひいろの様子が変わった。お前、ひいろに何をした」
「特に何もした覚えはないがな」
「何もないわけがない!あんな顔……」
「あんな顔?」
そう問うと、秀吉の眉間に皺が寄る。
分かりやすい男だ。その分かりやすい馬鹿正直な男に、ひいろはどんな顔を見せたのだろう。俺の知らないところで、俺以外の男にどんな顔を。ふつふつとした思いが沸き上がる。
「お前はことねだけでなく、ひいろの兄にもなったのか?」
「茶化すな。お前の方こそ変なちょっかいを出してないだろうな。あいつは、ひいろは真剣に家康を……」
「家康?」
聞き返した俺の言葉に、秀吉の表情が変わる。明らかに「しまった」と顔に書いてある。こういう所は分かりやすくありがたい。家康絡みであれば、尚更知りたくなる。
「ひいろが家康にどうかしたか?秀吉」
「いや、それは、だな……」
「どうした?ひいろが家康に思いでも伝えたか?」
「おっ、お前……どうしてそれを……」
「ほぅ、ついに伝えたのか」
簡単にかかってくれたな秀吉。面白くない情報だが、お前の言うことなら確かなのだろう。じくりと胸の奥を何かに掴まれた気がした。