第17章 離れる5【光秀編】
あの後、ひいろと会うことはなかった。
俯いたままの姿しか見れず、眼を合わせることも声を聞くこともできないまま。
俺が探しだすはずだった。
俺が見つけ出して、ひいろに触れ、その憂いを取り除いてやるはずだった。
なのに、俺はことねのそばにいて、その存在のあたたかさに浸っていた。そしてひいろは、家康と秀吉と戻って来た。家康の背に隠れるように、秀吉に守られるように戻ってきた。
なぜ、そうなったのか……
ひいろに俺は必要なかったのか……
こんな時にさえ、そんな思いが浮かんでは消える。どうかしていると分かってはいるのに、ひいろの影に囚われたままだった。
俺を見る御館様の視線の意味にも気付かぬほどに。
その後もつなぎの手筈等々話し、まだ話があると言う御館様と一之助を残して、俺と秀吉は先に座敷を出た。
秀吉は残りたいようだったが、「邪魔だ、猿」との御館様の言葉に渋々と立ち上がった。御館様の過去を知る一之助への嫉妬とも取れる感情がそうさせているのだろう。秀吉の御館様への執心ぶりは分かりやすく、素直に見せるその姿が嫌いではなかった。
「残念だったな、秀吉」
「うるさいぞ、光秀。それよりお前……」
小さく笑う俺に小言でも言おうとしたのか口を開いた秀吉が、こちらへと歩いてくる家康の姿が見つけ、駆け寄って行った。