第16章 離れる4【家康編】
「はしたない女とお思いでしょう?でも、これも私なのです」
「そんなこと……」
「いいえ、はしたないのです。本当はもっと家康様に触れて欲しい……」
「なっ……」
「でも、今ではありません。
誰かの変わりではなく、もっと私のことだけを考えて、私のことだけで家康様の中を満たして下さい。そして、欲して下さい。その時は……」
自分の唇に触れながら、ひいろが頬笑む。
少女のような女のような、不思議な頬笑みだった。
「私はずるくて、欲張りなんです」
また、とくりと胸が高鳴る。
本当にこの子は俺の知ってるひいろなの?
こんなに俺の心を揺らす、この娘は……
宙に浮いたままの俺の指先に、ひいろの指先が優しく重ねられる。そわりと、甘く痺れたような感覚に襲われ、身体の奥が熱をもつ気がした。
「私のことを思い出して下さい。私が家康様のことを思うように……」
「っ……」
そう言うとひいろは指先を離し、深々と頭を下げた。ゆっくりと上げたその顔からは、先程までの色香は薄れ、徐々にいつものひいろに戻っていった。
追い付かないのは俺の方。身体の奥底が燻っている。