第16章 離れる4【家康編】
途中でなんとか追い返そうとするひいろをなだめつつ、裏門までの道を歩く。
草履を履くために一度離した手をまた掴まえて、「倒れたら面倒」なんて言い訳しながら、繋いだ手のぬくもりを確かめるように、また歩く。
薬湯が効いたのかひいろの顔色も幾分か良くなり、足の運びも危なっかしくなくなってきた。
長引くものではなく、突発的なものですぐに良くなればいいけど。
そう思いひいろを見た瞬間、ちょうど目が合う。ひいろは俯くことなく、一瞬驚いた顔をしたけどすぐに頬笑み返してくれる。そんなことにほっとして、俺の口角も自然と上がる。
「……足元気を付けて」
「はい……ありがとうございます」
「薬湯、番頭に幾つか持たせるから、ちゃんと飲んで寝て」
「はい、ちゃんと飲んで寝ます」
ぽつりぽつりと、とりとめのない会話をしているだけだけど、今までとは違うと感じるのはひいろが真っ直ぐにぶつけてくれた思いのせいだろう。
明らかに俺のなかでひいろの存在は変化し、大きくなっている。
もう十数歩で門の前という所で俺の足が止まる。繋いだ手に力が入る。
もう、この手を離さなくてはいけない、手を離して城へ、皆のいる座敷へ、ことねのいる場所へ戻らなくては……
離さなくては……
離したくない……
今は………