第16章 離れる4【家康編】
「いっ、家康様、あっ、あの申し訳ありません……」
「別に。俺が心配なだけだから」
気のきいたことの一つでも言えたらいいけど、正直何を話せばいいのか分からなかった。
だからって訳じゃないけなど、手を離さないまま廊下を進む。
指先から伝わるひいろの温もりを感じながら無言のまま少し歩くと、ひいろの足が止まる。何かと思い振り向くと、気まずそうな顔のひいろがいる。
「本当にご迷惑ばかりお掛けして申し訳ありません……具合が悪かったからとはいえ、あんなこと……」
「あんなこと?」
「はっ、はい」
「あれは、謝ることなの?」
「えっ」
「あんたにとっては、謝るようなことだったわけ?」
「ちっ、違います!私は本当に家康様のことが……」
「なら、いんじゃない」
「えっ?」
「素直に俺にぶつけてくれたんでしょ」
「……はい」
「謝るなら俺の方。きちんと答えてないし」
「それは、私がお願いしたから」
「いいや、俺がずるいんだよ」
俺の言葉にひいろが小さく笑う。
「なに?」
「家康様は正直な方です」
「はぁ?」
「ご自分のことをそうおっしゃるのは、お優しい証拠です。本当にずるい方は、何も言わずに漬け込むものです」
「べっ、べつにそんなこと……ほら、早く行くよ」
「はい」
頬笑むひいろの手を引き歩き出す。
なんとなく頬が熱くなったのは、たぶん気のせいだ……