第16章 離れる4【家康編】
目をそらした瞬間に一之助の口元が笑ったように見えて視線を戻すけど、すでに一之助はひいろに向いていた。
「では、お嬢様。私はもう少しこちらに残らせて頂きます。裏門までの道筋は覚えてらっしゃいますか?」
「そのくらい大丈夫です。子供ではありません」
「ちょっと待って、ひいろを一人で行かせるの?」
「はい。門を出れば迎えが来ておりますから」
「家康様、そのくらい私は迷いません」
俺の問に一之助は平然とそう言い、ひいろはまた子供扱いされたと感じたのか、少し怒ったように答える。
「だから、そうじゃなくて……具合、悪いんでしょ」
「熱なら大丈夫です。家康様の薬湯を頂きました」
「飲んだからって、そんなすぐに……あぁ もう、わかった。俺が送る」
「だっ、大丈夫です!」
「そうして頂けると助かります」
俺の言葉に慌てるひいろの隣で、一之助は涼しい顔のまま頭を下げる。
一之助の思惑通りに動かされている気がして正直面白くないけど、ひいろが心配なのは本当のこと。
「ほら、行くよ」
「えっ、あっ、はい」
慌てたままのひいろの手を取り立ち上がる。
「よろしくお願い致します」
「お前のためじゃないからね」
「わかっております。お嬢様をお願い致します」
神妙に頭を下げる一ノ助をおいて、少し強引に手を引き座敷を出る。