第16章 離れる4【家康編】
「あっ、あの、ごめんなさい、家康様。無理を申しました。もう片付けも終わります」
「別に、あんたに向けたわけじゃない」
「あっ、はい、ごめんなさい」
俺のため息を勘違いしたひいろが、そう言って小さくなる。
このため息は自分へ向けたもの。ぐずぐずとずるい自分へ向けたもの。
「ほら、片付けが済んだならこれ飲んで」
「あっ、ありがとうございます」
湯呑みをひいろへと渡し、そのまま額へと手を当てる。
「まだ、熱あるね」
「あっ……」
驚いて頬を染めるひいろを見て、手を離す。とくんと胸が一鳴りする。
「……早く飲んで」
「はっ、はい」
慌てたように茶碗に口をつけ一口飲むと、ひいろが小さく笑う。
「なに?」
「家康様は、お優しいですね。薬湯が人肌で、熱くなく飲みやすいです」
「別に……病人相手だからね」
「ふふっ。ありがとうございます」
何が面白いんだか分からないけど、頬笑むひいろを見て自分の口角が上がっていることに気が付く。
こうやってひいろといることは嫌いじゃない。むしろ段々と心地好くなってきている。
ことねとは違う気楽さは、共にする薬草図鑑を作るという目的があるからなのか、それともただ俺が気を許しているせいなのか。