第16章 離れる4【家康編】
ふっと息を吐き、何かを払うようにぽん ぽん と秀吉さんが俺とひいろの頭を軽く叩いた。
「大丈夫だ。ほら、いくぞ」
そう言うと優しく笑って見せ、先に立ち座敷の中に入って行った。
その背中が何もかも分かっていると言っているようで、訳もなく肩から力が抜ける。
ひいろも同じことを感じたのか、握っていた手の力が緩み、俯いていた顔を上げる。
たった一言で、たった一つの動作で人の心を動かしていく。これが秀吉さんの、大人の余裕ってやつなのかと思い、軽く嫉妬する。
俺だって、俺にだって、ひいろの力になれることはあるはずだから
ずるい男だとしも、力になりたいのは本当のこと
そう思い直しひいろを見る。ちょうど視線が合い、二人顔を見合わせる。
「行こう」
「……はい」
握っていたひいろの手をもう一度強く握ってから離し、秀吉さんの後に続く。ひいろが深く息を吐く気配がした。
「大丈夫、隣にいるから」
「……はい」
ひいろが何を思っているかはわからないけど、今はただ味方でいたい
声をかけた俺の後にひいろが静かに続いた。