第15章 離れる3【光秀編】
「そうだ、光秀さん」
「なんだ」
ことねが体ごと俺に向き直りその場に腰を下ろす。何かあるのかと思いつられるように正面に腰を下ろすと、ことねが姿勢を正しゆっくりと一礼する。
「おかえりなさい」
静かに上げたその顔は穏やかな笑みを浮かべ、その眼差しはあたたかく、ふいをつかれたように胸の奥まで染み込んでくる。その笑顔に、その所作に、その声に、一瞬にして呑み込まれる。
「今回は戻られてから、まだきちんと言えてなかったなぁと思って」
ふわりとことねの香が舞い、息を呑む俺の鼻腔をくすぐる。その香が一気に身体を駆け巡り、ことねへの熱を思い出させる。
目の前でふにゃりと笑うことねに悟られないよう、静かに息を吐き整える。
「そうか」
「はい」
「……ただいま」
「はい」
熱を思い出した身体にじわりと甘さが広がり、ことねは気づきもしないまま、俺の内側を犯していく。
ひいろに出会うまで、闇から戻るための光はことねだけだった。ひいろに興味を持ち、待っていて欲しいと願ったのに、なのにこんなやり取りで俺が戻る光はやはりことねなのかとの思いに至る。