第15章 離れる3【光秀編】
素直に表情を崩すことねを見て、ひいろのことを考え青い炎で揺らいでいた心が、ことねの元でゆっくりと鎮まっていく。
「でも、まあ、健康な男の人だし信長様の立場を考えれば、女の人に不自由することはないんだろうけど……。いざ目の前にそういう人が現れると、しかもひいろちゃんがと思ったら動揺しちゃいました」
「羨ましいか」
「なっ!何を…光秀さん!」
「物欲しそうな顔をしてる」
「してません!光秀さんの意地悪!」
焦ったような怒ったような顔を見せたことねは、そう言うとまた少し笑った。
「ありがとうございます、光秀さん。やっぱり優しい光秀さん」
「思い違いだ」
「思い違いでもなんでも、私の心が少し晴れました。光秀さんのお陰です」
「単純な頭だな」
「そうみたいです」
他愛もないやり取りに、自分の頬が緩んでいることに気づく。
俺にとってことねは、特別な女なのだろう。こうして側にいるだけで、不思議と心が満たされていく。