第14章 離れる2【家康編】
「早く薬を……」
「いえ、まずは姫様と皆様に謝罪を」
手を引いて歩きだそうとする俺に、被せるようにひいろが言う。
振り向くと立ち止まったまま、先程とは違う光を瞳に宿したひいろがいる。
「絵師として仕事を投げ出してきたのは事実です。ですからまずは、皆様に……」
「けど、その熱。起きてるのもつらいでしょ」
「家康様が教えてくれたのではありませんか。絵師として私が何をすべきか」
「……俺がお願いしても、だめ?」
「はい」
微笑んで見せるが辛いのだろう、抑えているが肩で呼吸しているのが見て分かる。本当は抱きかかえてすぐに寝かせたい。でもきっとだめなのだろう。意志の強そうな瞳が主張している。
ふと頑固なとこがことねみたいと思い、慌てて言葉を呑み込む。いくらなんでも口にする訳にはいかない。
それでももう一度説得してみようとした瞬間、大きめな足音と共に大きな声が聞こえる。
「良かった!ひいろ探したぞ」
額に汗をにじませた秀吉さんが、此方へと近付いてくる。
「家康、ありがとな。見つけてくれたんだな」
俺の隣に立つと嬉しそうな笑顔で俺の頭をわしわしと撫で回した。相変わらずの子供扱い。まったくこの人は、俺にまで甘い。
「秀吉さん、それ止めてください」
「ん?あぁ、悪い悪い、ついな。
さてと、それでひいろは大丈夫か?」
俺から手を離すと、今度はすぐにひいろの顔を覗き込み心配そうに声をかける。