第14章 離れる2【家康編】
「ひいろがどう思ってるか知らないけど、俺はずるくて性格悪いよ」
唇を押さえられたまま、ひいろはふるふると顔を左右に振る。
「ひいろの思いに漬け込んで、何かするかもしれないし、何もしないかもしれない」
今度はぴたりとひいろの動きが止まる。
熱のせいかもしれないけど、潤んだ瞳で不安そうに期待するかのよう俺を見る。
「ただ、思うことは誰のものでもない、自分のものでしょ。だから自由なんじゃないの」
触れていたひいろの唇が動き、小さな声が聞こえる。
「ありがとうございます」
囁くような声のあと唇に触れたままの俺の手を、ひいろが両手で包み込む。
安心したように柔らかく微笑むひいろ。
俺に初めて見せくれる顔。
風が吹き黄色い落ち葉が舞う中、ひいろの髪がさらさらと揺れる。
髪に落ちる葉を気にすることもなく、微笑みながら俺の手を包んだ自分の手に、ゆっくりと口づけする。
直接触れられたわけではないのに、さっきまで感触が指先に残っているせいか、妙に身体の芯が熱くなる。
このままだと抱き締めてしまいそうで、ひいろの手を取り直しゆっくりと二人で立ち上がる。
「戻ろう」
「はい」
そう返事をしたひいろは真っ直ぐに俺を見て、また微笑んだ。