第14章 離れる2【家康編】
顔を伏せたまま、ふるふると震えるひいろをこのまま抱きしめたら……
伸ばしかけた手が行き先を迷い、宙に止まり小さく拳を握る。
触れたいのに触れられない。
ひいろの思いを聞き、浮かぶのはことねの顔。このままひいろを引き離せばいい。そうすればまだ戻れる、ことねの元へ戻れるはず。
なのに、そうできないのは何故だろう。
触れてしまえば、そこから何かが生まれてしまいそうで、ひいろを求めてしまいそうだからなのか…
だからって、突き放すことも抱きしめることもできない。
いつからこんな男になったのだろう。
ことね以外の女なんて興味なかった。
なのにひいろの存在が気になる、もっと知りたい。
でも、知りたいだけ知ったら、俺は……ただ、ただひいろを傷つけるだけになるのか……な
目の前で小さくなるひいろを、何も考えず抱きしめられたらどんなに楽なんだろう。
よぎることねの顔を振り払い、この胸にひいろを抱きしめられたら。
でも、それでどうなるんだろう
揺れる心をもて甘しひいろを胸に見上げた空は、あの日から返せないままの手拭いと同じ色だった。
薄水色、光秀さんを思い出させる色。
あの日、手を握り一瞬ひいろに向けた光秀さんの眼差し。あんなに優しそうな顔できるのかと一瞬驚いた。意地悪でも、面白がっているわけでもない、ひいろのことを慈しむかのような眼差し。
あの目に嫉妬しただけなのか……
ひいろは貴方のものじゃないと……