第14章 離れる2【家康編】
それを伝えられないまま、別れてから今日までずっと会えずにいた。
あの日の手拭いを胸に忍ばせ続け、俺は何を思っていたんだろう。何を伝えようとしていたんだろう。
俺の中にはことねがいるのに……
いるはずなのに……
あの時と同じ、泣き出しそうな顔で俺を見るひいろ。今はただ、力になりたい。それだけが真実に思えた。
そう自分の中で葛藤しながら、ひいろを見つめていると、ひいろは心が決まったかのように、一度瞳を閉じるとゆっくりと話しはじめた。
俺の目を見つめ、そらさず、真っ直ぐに。
「……怖かったのです。
楽しそうに嬉しそうに、皆様との暮らしを話すことね様の側にいるが。家康様とのことも、とても楽しそうに話されて……私の知らない家康様のことも沢山話されて……
それに、私にまで優しく気を使って下さったのに、なのに私は……」
「ひいろ?」
「優しくして頂くたびにことね様のことが憎らしく思えて、ことね様なんて消えてしまえばいいと……
そんなことを考える自分がとても醜くて浅ましい女なのだと知って、気が付いたらあの部屋を飛び出していました。自分のことが怖かったから……」
「なんで……そんな、」
「家康様のことを、お慕いしているから」
「えっ……」
「お慕いしているのです……」
俺を映すひいろの瞳から、一筋の涙が溢れる。