第14章 離れる2【家康編】
「……良くできました」
「なっ…………いっ、いえやす……さ、ま」
抱きしめたひいろの身体が小さく震え、戸惑いの声が聞こえる。
正直、戸惑っているのは同じだけど、今はひいろの力になりたかった。
「普通に聞いたって、俺には教えてくれないでしょ。だから、わざとあんなこと言ったの」
「そんな……」
「でも本当のこと、言えたでしょ」
「……はい」
「怖かったの?」
「…………」
「やっぱり俺には言えない?」
「いえ、あっ……あの……」
「俺はいつもひいろの絵に助けられてる。だから、ひいろが困っているなら助けたい」
「でも……あの……」
俯くから、俺の胸に顔を埋めるような形になり、さらさらとひいろの髪が風に揺れ、ひいろの香りが鼻をくすぐる。
ふと雨宿りの日の記憶が甦る。
雨の中、ひいろに口づけしたあの日のことを。
あの日から返せないままの手拭いが、まだ胸元に忍ばせてある。
その胸に、今また、ひいろがいる。
俺の中のどこかで、何かが音を立てた気がした。
「わっ、わかりましたから、あの、離して……下さい」
「……そう、いいよ」
両手を緩めると、俯いたままひいろが一歩、すっと後ろに下がる。
「ごめん。泣いてるのかと思ったから……」
ふるふるとひいろが頭を左右に振る。
「……嫌だった?」
一瞬ひいろの動きが止まり、また頭を振った。