第14章 離れる2【家康編】
次に会った時、ひいろは何も言わなかった。だから俺も、何も言えなかった。
ただ前よりも、絵に真っ直ぐに向き合おうと思う自分がいて、ひいろが顔を上げることが増えた気がした。
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俺を見つめる、ひいろの瞳
そう、あの時と一緒だ
真っ直ぐに、そらさず、強く、
でも少し、躊躇や怯えの見えるこの瞳……
ひいろが何を思い、ことねの絵の顔を墨で染めたのかは分からない。
でも、絵師としての瞳は生きている。俺が分かるのはそれだけ。
それなら……
目を合わせ微かな怯えを残したまま、暫く動かないひいろへ言葉を投げる。
「あんたは今日、ここに絵師として来たんじゃないの。なのにあんたは絵師としての仕事を放り出すの?」
「そんなっ……そんなことありません」
「じゃあ、何でここにいるの?放り出して逃げてきたんでしょ」
「ちっ、違う……違います。逃げてなんて……」
「俺の知ってるあんたは、絵に正直だ。それなのに、それを置いてきた。なら、あんたは……」
「違う!絵から逃げたんじゃない!あの場所にいるのが、ことね様といるのが怖かったから!だから……」
目に涙を溜め、それでも目をそらさず思いを吐き出すひいろが愛おしく思え、気付けばその身を抱き寄せていた。