第14章 離れる2【家康編】
確かにひいろはことねと違い、素直に感情を見せることはあまりなかった。番頭や家の者には笑顔さえ見せるのに、他人の俺にはいつも俯いて……
そうか、だから躊躇や怯えが見えたのか
丁寧にその場に頭を下げる番頭に『お前がそう仕向けたんだろ』と言ってやりたい気持ちを飲み込み、別の言葉を口にする。
「ひいろに、悪かったって伝えて。
ひいろに頼めば間違いないと思ってたから……甘えがあったって。
それと……ありがとう、って」
「承知致しました、申し伝えます」
そう言いながら番頭は顔を上げ、立ち上がる。無表情に戻ったその顔が、しってやったりと言っているように見えるのは、俺の思い過ごしなのか。
そのまま店先まで見送られ、ひいろに会えないまま帰路につく。
屋敷で改めてひいろの絵を見直す。
問題の木通は、俺の渡した枝以外の花が、いくつも描いてあった。きっと実際に花を手に取り、描いてくれたのだろう。俺に選ばせるつもりだったのかもしれない。
「はぁ……」
誰もいない部屋、大きめなため息をつく。
ひいろは俺の言葉を受け止め、絵と一生懸命に向き合ってくれていた。
請け負った仕事だからかもしれないけど、真っ直ぐな仕事ぶりに、真っ直ぐに俺を見たひいろの視線が重なる。
「綺麗な、色だね……」
指先で絵をゆっくりと撫で、呟く。
ちゃんと伝えられれば良かったのに。
またため息をつき、絵を閉じた。