第14章 離れる2【家康編】
「まさか、見透かされるとはね……」
小さく呟き、ぬるくなった茶を飲み干す。少し強めの苦味が、今は調度いい。
ひいろの絵を見ながら、頭の中ではことねの影を追っていた。絵に集中していなかったのは事実だ。
そこにひいろが気付くとは……
何やってんだろうな、俺
俺が頼んだことなのにね
もう一度ため息をつき、帰るために立ち上がる。
今日はもうひいろは会ってくれないだろう。そんな気がした。
どうやって謝るか考えながら襖を開けると、廊下に番頭が控えていた。
「家康様、お嬢様が御無礼を致しまして、誠に申し訳ございません。いつも家康様が絵に真剣に向き合って下さること、とても喜んでおりましたので少し臍を曲げたのでございましょう。
絵師としてだけではなく、家康様の薬草図鑑への熱意を感じ、お役に立ちたい思いも強いようでしたから、どうぞお気を悪くなさらないで下さい。それにしても……」
「それにしても、何?」
「あぁ、いえ。お嬢様がまさか家康様に意見されるとは……。
絵のこととはいえ、あのように他人様に感情を見せることなどなかったものですから、成長されたのだなと思いまして。
これも家康様のお陰でございます。お嬢様に絵を描く機会を下さりまして、ありがとうございます」
「よく喋るね、今日は」
「そういう日もございます」
そう言うと番頭は、小さく微笑んで見せた。