第14章 離れる2【家康編】
番頭の言葉で思い出した、前回ひいろに木通の花の色で相談をしたことを。
白と淡紫や紫のその花は、控えめだけど綺麗な花だった。ひいろに枝ごと渡すと、じっくりとその花を見つめていたのを思い出す。
「……綺麗な色」
「その色、あんたなら上手く出せるかな」
「……やってみます」
「あぁ」
そんな話をした気がする。
はっ としてひいろを見ると、ひいろも顔を上げ俺を見ていた。
いつもと違い、真っ直ぐと視線をそらさず、俺を射ぬくように見つめる。でもその瞳の奥に躊躇と僅かな怯えが見える。
「家康様にとって薬草図鑑の絵など、その程度のものなのでしょう」
「なっ……」
「……お心が此方にはないようです。あれでご満足ならば、私はこれで失礼します」
そう言い終わると、ひいろは深々と頭を下げてゆっくりと座敷から出て行った。頭を上げた後、ひいろはもう、俺のことを見ることはなかった。
残された俺はひいろの閉めた襖を見つめ、ため息をつく。
「ここに、心がない……か……確かにね……」
ひいろに言われたことは当たっていた。
このところ俺の心のは、ことねに捕らわれていた。
初めは弱いだけの何でもない存在だった。
なのにことねと過ごす時間が増えるにつれて、弱いのに強い、鈍感なのに繊細、間が抜けているのに負けず嫌い、そして何より一生懸命に生きているその姿に惹かれはじめていた。