第14章 離れる2【家康編】
通された座敷で久しぶりに来た俺に、ひいろは何か言うでもなく、描きあげた絵を見せてくれた。
いつものように全ての絵に目を通し、間違いないひいろの仕事振りを確認する俺の側で、ひいろは絵を直す為の準備をし、静かに待っている。
絵の直しというよりは、色の濃淡や根の張り方など、その時に思い付いたことなどを付け加えてもらうことが多かった。
どんな小さな注文でも、絵のことに関しては嫌な顔せずにひいろは対応してくれた。
「流石だね、ありがとう」
その日の絵もいつもと違わず、本物と見間違える程の出来だった。素直に出た俺の言葉に、俯いていたひいろが一瞬顔を上げ、すぐにまた俯いた。
「……そう、ですか。ありがとうございます」
何だかいつもと違うひいろの態度が、少し気になったが、それ以上問うことも問われることもなく二人して口をつぐむ。
それを見計らったように襖が開き、番頭が茶菓子を持ち現れる。
「お話がお済みの様でしたら、お茶でもいかがですか?唐辛子をまぶした揚げ菓子なるものが届きましたので、主がぜひ家康様へと」
そう言いながら番頭は、俺とひいろの前に茶菓子を置き、ひいろの描いた絵を持ち帰れるよう準備をすると、絵を持ち立ち上がる。
「そうだ、お嬢様。木通の花の色に悩まれていましたが、家康様にご満足頂けましたか。よう御座いました」
「「………!!」」
そう言い残すと番頭は、意味ありげな笑みを残し座敷を後にした。