第14章 離れる2【家康編】
真っ直ぐに、そらさず、強く、
でも少し、躊躇や怯えの見えるこの瞳……
そう、あの日と同じ瞳だ
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自分なりの薬草図鑑が欲しくて、そんな話を何気なくいろは屋の大番頭にした後で、少ししてひいろを紹介された。
「ならば、ご自分でお作りになってはいかがですか?」
そう言いながら、にこにこと大番頭が連れてきたのが、ひいろだった。
はじめは、いろは屋お抱えの絵師だと紹介された。俯いたままだけど、綺麗な所作でしっかりと頭を下げる姿が印象的だった。後に娘と教えられ、何となく納得した。
「ひいろ、と申します」
そう言って顔を上げた時の、一瞬だったが真っ直ぐな強い瞳が、しばらく頭から離れなかった。
その後、薬草図鑑の挿し絵をひいろに頼み、会う機会が増えて行くにつれ、ひいろが顔を上げる機会も増えていった。
でもいつも視線は少しずれたまま、あの時のように真っ直ぐに俺を見ることはなかった。
ひいろの側にはいつも番頭がいて、猿飛佐助にそっくりなその顔にはじめは驚いた。が、俺には丁寧だけどさして興味も無さそうな無表情で無駄口を聞くこともなかった。だから、俺も知り合いに似ているだけで特に別段話し込むこともなかった。
ただ、ひいろが番頭の目を真っ直ぐに見て話しているのが、時々気になった。
番頭には普通に話すんだな、
しかも時折微笑んで
だからって、別になんてことはない
なんてことは……