第14章 離れる2【家康編】
「ねぇ、なに、してるの」
「……えっ、あっ、あの」
俺の言葉に、ひいろは曖昧な返事を返し視線を外す。そして、顔を隠すように逃れるかのように俯いた。俺はそのまま近づき、ひいろの目の前に立つ。
俯きはするものの、ひいろはその場から逃げることはなく、古木に片手をついたまま、もう片方の手を胸の前でぎゅっと握っていた。
「あんたの絵に対する気持ちって、あんなものなの」
弾かれたように、ひいろが顔を上げる。
「……そっ、そんなこと……」
「あんたはいつも絵に対して真っ直ぐだった。どんな小さなことでも決して疎かにせず、真摯に向き合ってた」
「……」
「あんたの絵、ずっと見てきたんだ。だから分かる。あんたが絵に、ちゃんと向き合ってないことぐらい」
「なっ……」
ひいろの顔が歪む。一度開きかけた口を閉じ、下唇を噛む。胸の前で作っていた拳に力が入るのか、その手がふるふると震えていた。
でも、俯くことなく大きく見開いた目で、そらすことなく俺を見つめ返した。