第13章 離れる【光秀編】
「いえ、そうではありません。ひいろは、自分の身くらいであれば、何とでもできますので」
押し黙った俺に、今度は一之助の言葉が振りかかる。
「ひいろを守るのではなく、止めて頂きたいのです」
「止めるって、どう言うこと?」
俺より早く、弾かれたように家康の声が通る。不機嫌そうな顔の奥に、いつもと違う色と焦りが見えるのは俺の思い過ごしだろうか。
問いを受け、一之助が何かを耐えるように下唇を噛むと、また話はじめる。
「ひいろは襲われた後、自分の負った傷が癒えるとすぐに、自ら戦うすべを学びたいと言い出しました。乳母達が目の前で殺されたのは自分のせいだと。自分が自分さえも守れないから、守ってもらう存在だから悪いのだと」
「そんな……まだ、五つだったんだろ、ひいろは……」
「その通りです、秀吉様。しかしひいろは乳母達が殺された直ぐあとに、私を庇い斬られたのです。小さき心で何をすべきかを懸命に考え、自分の命よりも自分の為に他の者が傷つけられることの方が許せなかったと、自分が斬られるべきだったと……」
「自分のせいだと、すべてを受け止めて何とかしようとしたのか……泣きわめいて、誰かにすがってもいい歳なのにな」
そう口にする政宗の眼の色は、哀しそうに揺れていた。