第13章 離れる【光秀編】
「……その様な問は、俺ではなく御館様にしたらどうだ」
そう答え御館様を見ると、面白そうな顔をされこちらを見ていた。
「勿論、信長様にはお伝え致しました。その答えが、『その件は光秀様に一任している』とのことでしたので。いかがでございましょう、光秀様」
俺は小さくため息をつく。
御館様は俺に何を期待されているのか?どんな答えを望まれているのか。俺といろは屋が繋がる事と言えば……ひいろか……
「いろは屋を使う、となれば対価はなんだ。わざわざ話を持ってきたのだ、そこがあるからの話であろう」
「御察し頂きありがとうございます」
軽く頭を下げる一之助に、投げつけるかのように言葉が出る。
「ひいろか?狙われたひいろを守れと言うことか」
訳もない苛立ちが腹の底から這い出てくる。
ひいろを守るのであれば、俺だけでもできるはず。家康や他の者にまで話す必要は無い。ひいろの過去や今のこと、俺も知らないひいろのことを俺以外の男に話す必要などないのではないだろうか……。
そう思ってふと我に返り、一人息を呑む。
自分の中で、どれ程ひいろの存在が大きくなっているのかを。そして自分が思う以上に、ひいろへの執着が増していることを。こんな時でさへ、ひいろのあの眼が俺を捉えて離さない。いや、離せないのは俺の方か……。