第13章 離れる【光秀編】
秀吉の思いなど全てお見通しなのだろう、言葉の続かない秀吉に一瞥をくれると、一之助に視線を移し御館様が話しはじめる。
「俺がたどり着いた時、お前は血に染まったまま、胸に抱いたひいろの顔の血を懸命に拭っていたな」
「あなたが早くみつけてくれたから、私もひいろも生き延びることができたのです」
「お前らの悪運が強いのだろう」
「あなたのあんな顔は、あの時以来見ていませんね」
「ふん、戯れ言だな」
そう言うと御館様と一之助が互いの視線を合わせ、一瞬の間ができる。二人だけが分かる何かがあるのだろう。俺達の知らない御館様の顔、一之助は何処までどう知っているのか。秀吉でなくとも興味がわく。
「その後すぐにひいろを探しに来た者共にひいろを渡したが……お前はどうであったかな、イチよ」
にやりと今度は意味ありげに御館様が笑うが、一之助は特に気にする事もなく淡々と答える。
「私は……そのままいろは屋に拾って頂き、今に至ります」
御館様が取った間と、含みを持たせるような一之助のもの言いが気なるが、一之助が簡単に自分の事など語らないのだろうとの考えに至る。御館様も同じように考えたのだろう、表情を変えず口を閉じた一之助を見て面白くなさそうな顔をされる。