第13章 離れる【光秀編】
「まさに男達がひいろに手を伸ばそうとしていた時でした。私は走ってきた勢いのまま、訳もわからずひいろと男達の間に入り、ひいろを背に庇いながらその男達と追い付いた私の追っ手達と対峙することとなりました。
出会った時も刀を交えている間も、ひいろは泣くこともなく静かに私の着物の端を握り、すべてのことを瞬きも忘れたように見ていました。
そして、私が体勢を崩し切られそうになった瞬間、私を庇い斬られました。私を抱え込むように抱き締めるように前にでて、背中を……」
そこまで言うと一之助は目を閉じ下を向く。すぐに顔を上げては見せたがとても苦しそうな顔だった。が、それも一瞬のことですぐに表情を戻す。
「五つの子供が目の前で人が切り殺された後、他人を庇いその刃の前に立つなど……信じられませんでした。その後私は我を忘れ、ただひいろを守ること生かすことに集中しました」
「五つの子供がか……」
そう言って、秀吉が先程の一之助よりも苦しそうな顔をする。他の者は皆厳しい顔つきのまま口を閉ざし、暫しの静寂が訪れる。
「あの時は、ひいろよりもお前の方が死にそうな顔をしていたがな」