第13章 離れる【光秀編】
先程までの静かさとは違う雰囲気が座敷内の空気を変え、細い糸がきりきりと張られるようなそんな刺激が肌を刺す。
皆、生き死にのある戦で武将と名のりし者達だが、見知ったひいろのしかも幼い頃に目の前で行われた殺生だと聞き思うことがあるのだろう、それぞれの顔にわずかではあるが変化が見られた。変わらないのは御館様と語り続ける一之助のみ。
俺は驚きと興味を抱きつつ、その思いを顔には出さぬよう用心しながら皆を見る。家康が軽く下唇を噛み、三成は思案顔をし、政宗は少し厳しい顔になる。秀吉に至っては、平静を保とうとしつつも苦々しげな心内が見てとれる。
そんな雰囲気の変化を感じ取っていながらも、一之助は声にも表情にも変化は見せず、ただ淡々と語り続ける。
「私事ですが、恥ずかしながら若い頃に家を勘当され、命を狙われるということがございました。その頃の話でございます。
あの日も追われながら、町外れの長屋の間を逃げ回っておりました。なんとか追っ手を振り切ろうと走り、角を曲がり開けた場所に出たと思った瞬間、真っ赤に染まったひいろと目が合いました」
家康が噛んでいた下唇を離し、秀吉の眉間の皺が深くなる。俺は静かに息をはき、一之助を見つめた。