第13章 離れる【光秀編】
「糸野屋は側室の側近から手懐け、家臣の中にも息のかかった者を入りこませて勢力を伸ばしていたそうです。
ひいろが三つの時に寄越した使いもそうした者達でしょう。その存在確認すると、緑はお手つきでいろは屋に出され殿様の子を産んだと国で噂を流させました。そしてじわじわと家臣の中にその噂を浸透させ、ひいろが五つの時に行動を起こします。
ひいろを拐かそうとしたのです」
そこまで話すと一之助は口を閉じ、何かを問うように御館様を見た。
「すきにしろ」
御館様が静かにそう言うと、一之助は目を閉じゆっくりと開け、また語りはじめる。
「ひいろが五つの時、緑は体を壊し町から少し離れた所にある別邸で過ごしていました。そこからの帰り道、ひいろは突然襲われたのです。
ひいろを守ろうとした乳母と姉と慕っていた乳母の娘が目の前で切り殺され、その血を浴びて真っ赤な姿で声も上げず、ひいろは立っていました。
私がひいろに、初めて出会った時のことです」