第13章 離れる【光秀編】
「現殿様が正室を亡くされた後、側室におさまっていた糸野屋の娘は次こそは子を授かり正室にと息巻いていたようですが、殿様はそんな側室を嫌い肌を合わせることもほとんどなかったそうです。そんな時女中として緑が現れ、殿様と仲が良いと噂されれば……」
「消されるな」
その声に皆の視線が集まる。
「光秀様のおっしゃる通りです。以前、別の側室候補が突然病に伏せた時に、糸野屋が裏で糸を引いていると噂を聞いていた殿様は、緑が狙われていることを感じると、すぐに信頼していたいろは屋に緑を託しました。そこで緑は吉右衛門と出会い、ひいろが産まれたのです。
国を離れ、違う男の子を産んだことで緑への危険は免れたと思えたのですが、糸野屋の狙いは次に移っただけでした」
「ひいろに、だな」
俺の言葉に一之助は静かに頷き、家康が一瞬眉をひそめる。
「風の国は血縁を重んじており、国を継ぐ者は必ずその血を体に受け継ぐものとの古くからのしきたりがあるそうです。
そのため、すでに殿様には四人の子がおられましたが、側室は自分も子を授かりその血族関係を手に入れようと色々と動かれていたようです。しかし、緑が国を離れた後もその願いは叶うことありませんでした。
糸野屋はそうなる事を予期していたのか、国を離れた緑の動きを探り続けていました。緑が産んだ子であれば、殿様の子として血族として利用できると考えたのでしょう」