第12章 【番外編】揺れる~家康編~
「ふふふっ。家康、またここに手がいってるよ」
ふにゃふにゃしたことねの顔と声に、我にかえる。ことねが自分の胸の辺りに手を当てている姿を見て、自分の胸元を見ると、ひいろの手拭いの入れてある左胸に我知らず自分の手をおいていた。
ひいろに返せないままの手拭いは、いつ会った時にでも返せるようにと、いつの間にか懐に入れておくのが常となっていた。そして着物上から、知らずにそこを撫でていることが増えていた。
「別に、明日になれば返せるから、その確認してるだけ」
「ふーん」
別にやましい気持ちがあるわけじやないのに、いや、勝手に口づけしてしまったのだから、ひいろに対してはやましい気持ちがあるのか。ひいろにはあっても、ことねにはないか。
いやいやむしろ、俺はことねに対して好きという感情があるのだから、ことねに対してのやましい気持ちか……。
訳の分からぬ気持ちがあちらにこちらにとわき上がり、俺の心はゆらゆらと揺れていた。