第12章 【番外編】揺れる~家康編~
ただ、ひいろに会いたい。
ことねには城に来れば会えるから、会えないままのひいろに会いたいのか。
いや、違うな。
会って、もっとひいろのことが知りたい。
俺の知らないひいろのことを……。会えばこの気持ちに決着が着くわけではないけど、ことねの代わりとかじゃなくて、ただもっとひいろに近づきたい。ひいろのことが知りたい。明日会えたなら、そんな気持ちを伝えられるかな?
隣にいることねを見て、頭の中にひいろの顔を思い出し、心の中は大きく揺れ動く。
「ことね、早く明日になるといいね」
「そうだね。家康はひいろちゃんに、私は信長様に」
「俺は手拭い返すだけだけど」
「そっか。私は何話そう」
信長さんを想ってか、俺の言葉に上の空のような表情を見せる。ここにはいない信長さんを想い、遠くを見るように頬を染めることねは、やっぱり美しかった。
以前なら、隣でそんなことねを見ながらふつふつとどす黒い思いを募らせていたのに、今日はそれがやってこない。
ひいろの存在がそうさせるのか。胸の辺りに手をおき、考える。
明日は、やっと会えるんだ……
何、話そう……かな
元気かな……ひいろ
着物の上から手拭いをそっと撫で、考える。