第11章 揺れる
「では明日、楽しみにしておるぞ。ひいろ、着飾ってまいれよ」
「絵師として、伺います」
「……お気をつけてお帰り下さいませ」
そう言ってひいろと一之助と言葉を交わし、軽く笑みを浮かべたまま御館様は馬の腹を蹴り、走り出す。
「信長様、お待ちください! ひいろ、一之助、明日は絵師としての姿楽しみに待っているぞ。気を付けて帰れよ」
「はい、秀吉様もお気をつけて」
「ありがとございます、お気をつけてお帰り下さいませ」
慌てたように言葉を掛けると、秀吉は御館様を追い馬を走らせる。
「光秀様」
秀吉を見送った馬上の俺に、ひいろの声が届く。
「あぁ」
「今日は、お会いできて嬉しかったです」
「そうか」
「はい」
暫し、二人見つめ合う。
ひいろの瞳を見ると、言葉を交わさなくても伝わるものがある。そう思うのは、俺の独りよがりか……それとも……。
「明日、光秀様の絵をお持ちします」
「あぁ」
「光秀様のお帰りを待ちながら、描きました」
「そうか」
「はい」
「待っていてくれたのか?」
「はい。誰かを待ち、思いながら描くのは初めてでしたが、良いものですね」
「なぜそう思う?」
「会えない間も寂しくありませんでした」
「俺に会えないと、寂しのか?」
「さあ、どうでしょう」