第11章 揺れる
「「はあぁぁぁ」」
「カァーー」
御館様の背後から、大きな溜め息が二つと鴉の鳴く声がする。いつの間にか秀吉と一之助が、すぐ側まで来ていた。
「ひいろ、言葉が過ぎるぞ。信長様も娘相手に、ほどほどにして下さい」
「そうです、お二人とも。今度こそ本当に終いにして下さい。いい加減、黒も呆れていますよ」
「カァ」
男二人の呆れた声に合わせるように、一之助の肩にとまる黒が、本当に呆れたように一声鳴く。
「ふふっ」
ひいろが小さく笑うと、それを見た御館様も先程とは違う笑みを浮かべる。
「小言がはじまるぞ、ひいろ」
「はい、信長様」
「この小言の元凶は……光秀、だな」
「はい、光秀様です」
急に二人が結託し、矛先を俺へと向ける。
「さて、どうするかなぁ、光秀。秀吉とイチの二人一緒の小言となると……金米糖の一つや二つでは足りぬなぁ。のう、ひいろ」
「そうですね、小言の多い二人が一緒ですから……それでは足りません」
悪戯の相談をする子供のように、二人が楽しそうに話し出す。
話ながら、ふとひいろが御館様に対し見せる表情に目がとまる。時折入り交じる、安心して甘えるような表情。ひいろが一之助に見せているのと同じ顔。そこまでひいろは、御館様に心を許しているのか……何となく言葉に詰まる。