第11章 揺れる
文を読んだ一之助が、御館様に何かを告げる。御館様が大きく頷き、目線を俺に向ける。
「ひいろらは絵師として、明日城へ呼ぶ。皆とことねを集めておけ。よいな、光秀」
「御意」
低いがよく通る声が、俺へと届く。
御館様の眼は、なぜだか面白そうに笑い、光を宿していた。
「ひいろ、初めての城だ。せいぜいめかし込んでまいれ」
「絵師として、せいぜいめかし込んでまいります」
御館様の言葉に、姿勢を正し凛とした表情でひいろが答える。売り言葉に買い言葉のようなもの言いに、秀吉が苦笑いし、一之助がため息をつく。
何故だか御館様は、ひいろに対して面白い程にかまい続ける。そんな御館様に、ひいろは対等に渡り合おうと一生懸命に背伸びをする。その姿は微笑ましく、御館様の口元が緩むのも分かる気がした。
「まるで、仲の良い兄妹のようだな」
俺のぽつりとこぼした言葉に、ひいろが反応する。
「光秀様。私には、あのように意地の悪く、口の悪い兄などおりません」
ひいろの言葉を聞くと御館様は、俺とひいろの元へとゆっくりと近づいてくる。
「勿論だ。俺にも、こんなじゃじゃ馬で小生意気な小娘の妹は、おらん」
「…………」
ひいろの前に立ち、見下ろすようにしてそう言うとにやりと笑う。ひいろが口を一文字に結び、不機嫌そうな顔をする。