第11章 揺れる
「そんな眼を……しているのか?」
「はい」
小さくひいろが答え、重ねている手に微かに力が入る。
「悲しくて、優しいお顔です」
「そうか」
「はい」
小さくひいろが笑う。
先程の泣き出しそうな顔ではなく、柔らかく慈しむような笑み。
優しい顔とは、今のお前の顔なのだろうな。
そして、今の俺の顔は、表情をつくれずにいる素のままの顔。ひいろがそう見えるのなら、そういう顔なのだろ。
「悲しくも、優しくもないが……」
「はい」
ふふふっと、小さく声に出してひいろが笑う。つられるように俺の口角も上がる。
「今は優しいお顔」
そう言って頬笑み続けるひいろが愛らしくて、抱き寄せて腕の中に閉じ込めてしまいたくなるが、それも叶わず、俺の手の上に重ねられていたひいろの手を掴まえ、握ったまま俺の胸の上におく。
「光秀……様?」
「初めて会ったあの日から、お前は確かに俺のここに存在する。お前が何に憂いを感じているかは分からんが、お前のいない日常など、俺の中にはもう存在しない」
一瞬驚いた顔をしたひいろが、すぐに笑みを深くする。
「ずいぶんと、大袈裟ですね」
「そうか?」
「はい。でも……」
「でも?」
「ありがとうございます。私の中にも光秀様のいない日常など、存在しません」
視線が絡み、ひいろの瞳の熱が強くなる気がした。そして、俺の身体の熱も。