第11章 揺れる
「そうだな、戯れだ」
「やっぱり……」
ひいろは、そう小さく呟いて、安心したような、少し悲しそうな顔を見せる。
「戯れだが、あの時俺は、確かにひいろの唇を欲していた」
すぐにでもこの腕の中に閉じ込めたい衝動に蓋をして、真実を薄い嘘の膜で覆い、今の俺なりの一番素直であろうと思う言葉を並べてみる。
本当は、ひいろのことが欲しくて欲しくて、唇に触れることで誤魔化した熱を思い出す。待っていてくれたなら、この想いをさらけ出すつもりだったが…………その必要はないようだな。
気づかれないよう奥歯をぐっと噛み、からかうような表情を浮かべようする。が、表情をつくるよりも一瞬早く、ひいろの声が耳に届く。
「嬉しいです。例え戯れでも、光秀様が私のことを欲してくれたなら。私は光秀様の中に、確かに存在しているのですね」
泣いているのかと思うような笑顔が、俺の目にうつる。我知らず指先が伸び、ひいろの頬に触れる。外にいるせいなのか、柔らかく冷たい感覚が伝わってくる。
「みつ、ひで……さ……ま」
驚いた瞳でひいろが俺を見る。
「なぜ……そんなに、悲しそうな眼をされるのですか……」
いたわるように、ひいろが頬にある俺の手に、自分の手を重ねる。