第11章 揺れる
「よかった……の、でしょうか?」
「なに?」
「はじめは……光秀様の言うように、家康様の好いた誰かの代わりでもいいと思いました」
「はじめは?」
俺を見上げるひいろの潤んだ瞳が、徐々に強い光を宿しはじめる。
「花街の姉様達は、殿方は欲を吐き出す生きものだと言います。吐き出さずにはいられないものだと。だから私達がいるのだと……」
「…………」
「だから、家康様が欲を吐き出したいなら、誰かの身代わりでも、それでもいいと思っていました」
「……今は、違うのか?」
「はい……今は私というものを見て、欲(ほっ)して頂きたいと思いました。だめ、でしょうか?」
強い光を帯びた瞳が俺を見る。自分の意思を持ち、自分の思いを貫こうとする強い光。
ただ、それが揺れているのは、はじめて恋というものに直面した純粋すぎる想いからなのか、それとも自らでは計り知れない、恋というものに対する恐れや戸惑いなのだろうか?
どちらにしても、そんな風に想いを巡らすひいろが、好ましく思えた。
好ましく思えばこそ、その想いの先にいるのが、家康だということに、俺の胸の中の青き炎は更に大きく揺れ広がり、じりじりと身を焦がしていくのだった。