第11章 揺れる
「光秀、お前の絵も描き上がったそうだな。ひいろらを城へ呼ぶ。日を決めよ」
「……はっ」
御館様の声に我にかえる。間をおいた俺の声に口もとだけに笑みを浮かべ、御館様が面白そうな顔をする。
「ずいぶんな美人画に仕上がったそうだな」
「のっ、信長様! 私はそのようなことは申しておりません。光秀様はお美しい方ですと言ったまでですっ! 」
「同じことよ」
「違います」
「同じだ」
「違います」
「かわらん」
「かわります!!」
口を少しとがらせ、ひいろが不満そうな顔を見せると、御館様は更に笑みを深めひいろをまたからかいはじめる。普段と違い幼さが覗くその表情と声音、それをからかいながらも柔らかい表情になる御館様。俺の知らない二人がそこにいる。まるで仲の良い兄と妹のような……
まさかな………………
「そこまでですよ、お二人とも」
黙っていた一之助が二人の間に入る。
「秀吉様と光秀様がお困りです。私もお伝えしたいことがありますので、そろそろ終いにして下さい」
表情は変わらないものの、眼鏡を直しながらそう言う一之助のは、少し呆れたようにため息をついた。
「ひいろ、イチに怒られたぞ」
「信長様が、怒られたんです」
そう言って笑う二人の顔を見て、俺の中に先程浮かんだ言葉が、またゆらゆらと揺れ出した。