第11章 揺れる
久しぶりに会えたひいろは、俺の初めて見る姿で、見たことのない顔で、御館様と馴れ合っていた。
会うたびに驚かされる。
そんな女は初めてだなと思いつつ、ひいろとの出会ってからの時の短さと、ひいろのことを知らなすぎる自分が恨めしく思えた。
そうまでして女のことが知りたくなるなど、いつ以来のことなのだろう。若造だったあの頃以来…………
急に家康の顔を思い出す。あいつはこの事を知っているのか?ひいろのこの姿も、御館様との馴れ合いも……妙なざわめきが胸の奥を揺らしてくる。
「秀吉」
「なんだ?」
「この鷹狩りのことは……」
「あぁ、他の者は知らないことだ。今までは、信長様と俺だけだった。お前がいろは屋との関係が濃くなったから呼ばれたのだろう。今回は一之助からのつなぎだしな」
「つなぎか……いろは屋は、御館様の間者かなにかなのか?」
家康は知らないということに何となく安堵し、疑問に思っていたことを口にしてみる。
「……いや、いろは屋はいろは屋だ。それ以上でもそれ以下でもない……と、思う。実はな、詳しいことは俺も分からん。ただ、古くからの知り合いだと話されていることはあった。俺が信長様に出会う前かも知れない」
「そうか」
「あぁ」
少し寂しそう笑う秀吉の憂いは、そこにあったのかと納得が行く。
俺はひいろの過去に揺れ、秀吉は御館様の過去に揺れているのか。欲しても手に入らないものなのに、人の思いというものは妙なものだと、柄にもなく感じ入る。