第11章 揺れる
「秀吉、お前でも御館様のことで、知らないことがあるんだな」
「当たり前だ。信長様のすべてを知るなど、俺には恐れ多いことだ。信長様は、俺などでは計り知ることなどできない、とても大きな方なのだから……もちろん知りたい気持ちはあるがな」
少し寂しそうに微笑む秀吉が羨ましかった。素直に自分の気持ちに向き合い、表に出せる奴の性質が眩しい。だからと言って、すべてを出しているわけではなく、奴らしい分別と優しさで、他人を思いやってばかりいる。世話焼きの人たらし。こういう奴にこそ、優しいという言葉が当てはまると思うのだが。
そんな他愛もないことを考えているうちに、御館様は二羽のうさぎを捕らえ鷹狩りを終え、羽黒と赤は空へと戻り、いつの間にかひいろ達がすぐ側まで来ていた。
「久しいな、ひいろに一之助。息災であったか」
御館様の言葉に二人は片膝をつき、頭を下げる。
「はい。いつもお気遣い頂き、ありがとうございます」
凛とした落ち着いた声で、ひいろが答える。侍姿のせいだからなのか、いつもよりも声が大きく伸び伸びとしている気がした。
「少し見ぬ間に良い顔になったな、ひいろ」
「ありがとうございます。ですが、何も変わってはおりません」
顔をあげたひいろの眼は、相変わらず強い光を宿していた。