第11章 揺れる
「……………………ひいろ……か」
意識をして見てみれば、眼鏡の方はいろは屋の番頭……一之助で、その隣にいるのは侍の格好をしているが、紛れもなくひいろだった。
遠くにいると聞いていたが、気がつけば側にいた。急に現れたひいろの姿に息をのみ、下唇を噛む。心の臓をぎゅっと掴まれた気がした。
「いろは屋の二人だ。気づかなかったか? なかなかやるだろ、ひいろも。驚いたか?」
そんな俺を見て、秀吉が面白そうに笑いかける。
秀吉には、俺がただ驚いているだけに見えているのだろう。俺の心が揺れていることなど気づきもしないで。それであれば、ありがたい。
「あぁ、まさかここで会うとは思わなかった。しかもあの姿は、はじめて見るからな」
「俺は、鷹狩りの時の姿しか知らないからなぁ。お前が絵の話をした時には驚いたぞ」
「そうか」
「おい、それだけか! まぁしかし、面白い子だな、ひいろは。それにいろは屋も面白い。信長様との間に、俺の知らない縁(えにし)があるらしい」
ふと、秀吉が遠い目で御館様を見る。
いつの間にか狩りを再開し、ひいろの操る隼が宙を舞っている。それを面白そうに眺める御館様は、いつになく穏やかに見えた。ひいろ達に気を許しているということなのか?それが秀吉の言う、いろは屋との縁なのだろうか?
俺たちといる時とは違う、御館様の表情に秀吉の憂いを感じた。