第11章 揺れる
腰の鉄砲に手をやる俺を目で制し、秀吉が二人の侍に向かい手を上げる。
「光秀、大丈夫だ。そのまま見ていろ、なかなか面白いぞ」
秀吉の言葉に構えを解き、二人の侍に目を向ける。二人連れは笠を取り、御館様や俺たちに一礼する。
一人は長身の眼鏡の男。もう一人は、長い髪を高い位置に結わえた少年のような若侍だった。
秀吉の合図を受け、若侍の方が左手を高く上げると、待っていたかのようにその手に隼が止まる。
「今日は、赤が来たか」
「赤?」
「あぁ、そうか、お前ははじめて会うんだったな。あの隼の名が、赤、だ」
「ほう、鳥の名か」
「そうだ、他にも黒や白がいる。あそこの鳥使いは面白いぞ。黒は鴉。白は梟だ」
「鷹匠ではなく、鳥使いか。興味深いな」
「まあな。気になれば聞くといい、なんせ……」
「猿、いつまでその口を開いておる。羽黒につつかれるぞ」
その言葉が分かるかのように、羽黒が秀吉に向かって、大きく羽を開き、一声鳴く。
「失礼しました、信長様、羽黒」
秀吉は苦笑いしながら口を閉じる。 羽黒も大人しく羽を閉じ、御館様に向き直る。
御館様が目を閉じ、ゆっくりと開く。
空気が、変わる。