第11章 揺れる
小高い丘の上、馬を降りた御館様にならい、その横に立つ。降り立った丘の反対側を見れば、背の低い木と草花が生い茂る、開けた場所が広がる。
鹿皮で仕立てた手袋をはめ、御館様が左腕を高く上げる。指笛を吹くと、少し間を置き羽音と共に鷹が一羽、悠然とその手に止まる。
「羽黒、久しいな」
「ピィー」
挨拶するように羽黒は一鳴きし、御館様の顔を見る。合図を催促するように、羽を広げては閉じて見せる。
「もう少し待て。じきに秀吉が来る」
御館様は、羽黒をなだめるように声をかけ、先程馬で掛け上がって来た方を見る。土煙を上げ、ようやく秀吉が到着する。
「信長様も光秀も、もう少し静かに走れませんか。お忍びの意味がないですよ」
「ふん、また小言か。お前も飽きんなぁ」
「光秀!! また、お前は そう言うことを……」
「秀吉、はよう、せい。羽黒も待ちきれんぞ」
「はっ! 信長様、失礼しました」
そう言って御館様に一礼し、秀吉は丘の下になにか合図を送る。すると、人影などなかったそこに、笠を被った二人の侍が現れる。